最後の勇姿

ピッチにたたずむ

後半34分。
ウォーミングアップするベンチメンバーのもとに
3人目の交代をする選手の名が告げられる。
キタジだ。
呼ばれたキタジは真田の元へ駆け寄り、抱擁。
真田はどんな思いでそれを抱きとめただろう。

清水 1−3 神戸
  (JJ)

指揮官は分かっていなかったんだろう。
エスパサポにとって真田の引退はベテラン選手のごくありふれた引退ではない。
まだ歴史の浅いエスパルスの影となり日向となり支え続けた選手の、創世記のメンバーの引退なのだ。
この日集まったエスパサポの多くは’04シーズンの最終節を観戦しにきたのではなく、真田の最後の勇姿をその目に焼き付けるためにやってきたのだ。
そして先発メンバーが発表された時点で実質真田の出場がないことを悟った。


指揮官は分かっていなかったんだろう。
ホーム最終戦を勝利で飾るよりもサポにとって大切なものがあることを。
3失点はGK一人の責任ではないのに、西部にとってはかわいそうな結果となってしまった。
3人目の交代枠が真田ではないと知ったサポからあがる真田コールのなか
ピッチに入ったキタジにとっても気の毒なことになってしまった。


指揮官は分かっていなかったんだろう。
あのブーイングはこの試合に負けたことや
過去最悪の成績で終わったことへのものだけではない。
真田の日本平での現役最後の勇姿を披露する場を永遠に奪ってしまった。
そのサポの無念がその時点でまだ辞任を発表していなかった指揮官に
「まだやるつもりなのか。」という怒りに変わったブーイングなのだ。


結果論だけれども。
真田を先発で起用すべきだった。
先発でなかったためになんとか大差をつけて真田の出場機会を実現させようとピッチ上の選手たちは気負ったのかもしれない。
1点差では微妙、負けている時点で真田の投入はありえないのだから。
仮に3失点したのが真田だったらあのブーイングは起こらなかったかもしれない。
むしろ先発の真田から交代で入るクロの姿に感動したかもしれない。
前日すでに指揮官は辞意を伝えていたという。
それをサポにももっと早く発表していたら西サイド1Fでの抗議はなかったかもしれない。


この段階での勝ち点にどれほどの意味があるんだろう。
そうまでしてこだわった『勝ち』にも見放されて・・・。


むなしい。
こんな思いをかかえたまま日本平をあとにするなんて。
後味の悪い。
真田の引退セレモニーは感動的だったのに。
さびしい。
サポ仲間と「また、来年。」なんて挨拶を11月にするなんて。


かなしい。