献身と慈愛と矜持と

前日から報道が飛び交っていましたが
公式に発表されるまでは静観するつもりでした。

ケンタ、今季限りで退任

ナビ杯敗退のあと ケンタのことをずっと考えていた。


6年前、ケンタが監督を引き受けてくれたとき
エスパルスの状況と言ったら もうもう本当に本当に悲惨で
ピッチに立っている選手たちは自信が無くてオドオドしていて
試合が始まる前からどこかで早く終わってほしい、と 思っているかのような
そんな情けない様子で。


そこへ 当初はコーチとしての入閣が決まっていたものを
緊急事態の昇格人事でJ監督未経験者のケンタが監督としてエスパに戻ってくる、
それを聞かされたときには驚愕し困惑し不安にも思い
でも ある意味、腹が据わった。


「ケンタで堕ちるなら、もうしょんないもんね」


もちろん いつかはケンタをOB監督として迎え入れたい、とは思っていたけれど
それはエスパ自体に余力があり ケンタのサポートを十分に取れる体制を用意してあげたうえで
「お帰り」と にこやかに迎えるつもりでいた。
が。
全くなんの余力も財産も無い状況でエスパを急に押し付けることになって
むしろ申し訳なく思った。


ところが。
若々しさと青さが混在しながら奮闘するケンタは
想像以上の頑張りで これがあのエスパルス?と目を疑うような結果を残してくれた。
初年度こそ下位に低迷して、ぎりぎりに決めた残留だったけれど
その内容は 前年度よりもその前々年度よりも格段に目に見えて良くなっていた。
なにしろ選手たちの表情が違う。
あのうつむき加減の自信無さげなものは跡形もなかった。


ケンタは名将になる、エスパ史上に名を遺すほどの。
ジーやスティーブと肩を並べるほどの名将になれる。


そんな未来の名将へ懸ける想いは だんだん確信になっていった。


「目標は5位以内」
残留争いをぎりぎりで決めた翌シーズンのケンタの言葉に
思わず ブっと吹いたっけ。


ま、またーそんな大きなこと言っちゃって大丈夫なのぅ?
一桁順位を目指します、くらいにしときゃいいのに。
それだってこれまでに比べたら十分な目標だよ?と苦笑いしたけど
シーズンが終わった時にはその有言実行ぶりに頼もしさを感じた。
そして次の年も、その次の年も もっとその想いは深くなっていった。


「今年の目標は優勝です」
そういっても もう誰からも苦笑されないところまで
あのエスパルスをケンタは育ててくれた。
それだけじゃない。


「まだ負けているぞっ!」


去年のダービーで
前半3−1でリードして折り返したハーフタイムにケンタが言ったセリフ。
勝っているのに「負けているぞ!」。
その年の前半戦のダービーで0−3で負けたことを引き合いに出しての鼓舞。
ダービーなのだから!という熱い想いをサポと共有していなければ
絶対に口をついて出てこないセリフ。


これまで ケンタほどエスパ愛を前面に押し出しながら指揮してくれた監督がいただろうか?


『現在指揮しているチーム』として大事に想ってくれた監督は何人もいたけれど
エスパ愛』をここまで惜しげもなく魅せてくれた監督はいなかったように思う。


ケンタは ただの『OB監督』じゃない。
もっと、より身内に近い感覚。


「オレンジの血が流れていない選手はいらない」
そう言い切れるのは ケンタの血がオレンジだから。


何もないところから生まれたエスパルスの創世記のメンバーは
「俺たちが創りあげてきた」という強い自負がある。
それはケンタからもエノキからもノボリからも あのときのみんなから同じ誇りを嗅ぎ取れる。


ケンタが監督だったら 最後の試合に真田を先発起用しただろう。
ケンタが監督じゃなかったら 最後の試合にノボリは先発じゃなかったかもしれない。
サポと近いところでエスパのことを想ってくれている。
ただ目の前の試合に勝つのではなく
長い目で見て この選手の成長のためにこの試合を捧げよう、という献身。
淳吾の今季の活躍も 昨季なかなか調子が上がらない中でも
ケンタが我慢して起用し続けたから。
タクの成長も。
契約書を交わす間柄だけれど チームの未来を見据えて指揮してくれていた。


たぶん、来季以降
私たちは ケンタがどれほど深くエスパを愛してくれていたのかを
改めて知らされるのだと思う。


6年間でただの一度もタイトルが獲れなかった。
それは紛れもない、事実。
ただ ケンタは自分が就任したときには何もなかった土台を
毎年きちんと残してくれている。


ケンタには本当に楽しい想いをたくさんさせてもらった。
もしかしたら もう味わえないのかも、と思っていたようなものまで。
ファイナリストには2回もなったっけ。
いつの間にか勝利数は日本人監督第3位、だとか。
就任したときには正直ここまでやってくれるなんて思ってなかったよ。


この6年間を振り向けば ケンタには感謝の気持ちしか出てこない。
ただ。
ナビ杯の準決勝敗退が決まったあとのダイラで
いつまでもピッチを眺めながら座って思ったのはケンタの『限界』だった。
6年間、とにかく突っ走って新しいこともどんどん取り入れて
脇目も振らずにやってきたことで
ケンタ自身にも少し休息が必要なのかも、と ぼんやり考えてた。


いつかはケンタとも別れて歩いて行かなきゃならないときがくる。
できれば、その別れは円満なものであってほしい。
契約期間を満了して「ありがとう」とお礼を言うことができる雰囲気のなかで。
そのときがとうとう来たのかもしれないな、と。


次にケンタがエスパの指揮を執るときには
最初からもう期待しまくって重圧かけて楽しませてもらうつもり。
数年後に(体型含めて)大きくなって戻ってくるケンタを
今からニヤニヤしながら待つことにする。


ありがとう、は まだ言わない。
まだシーズン残ってるからね。


さ、今季も悔いのないようにダイラに通おう。