それぞれの想い

そのニュースが駆け巡ったのは月曜日のことだった。


主力の夏の移籍に どこか鈍くなっている感覚を自覚しながら
どこか諦めにも似た達観を持ちながら 受け入れてる。

バレーさん、中国へ

慣れ、か。
たった半年だったけど 若手の良き見本として
プレー以外の面でも よくやってくれた。
なかなかゴールが生まれなくて 苦しい想いもしてたと思うケド
在籍してくれたことに感謝。
置いていってくれた移籍金を大切に使わなくちゃね。
ありがと、バレーさん。
いつかまたどこかで。


さて。


その日、同じく もうひとつのニュースがTLを賑わした。

タク、再びオレンジ戦士へ

タクが清水へ?


最初、私にとって
このニュースはとても受け入れがたいモノだった。


あの年のオフのことはとっくに過去の出来事だったハズなのに
紙面を観た月曜日の朝、
まるで昨日のことのように胸の痛みが蘇ってきて
乗り越えたのではなく
自分でも気づかぬうちに 忘れたことにしてたのだと知った。
あのときの痛みを 無理矢理、思い出させられたのだった。


あの年のオフ。


辛くて哀しくて悔しくて・・・。
それでも見守ることしかできないことに
腹立たしさと虚しさでいっぱいになっていた、あの年のオフ。


その想いを吐露する記事を
実はその次の日に下書きとして書いていた。
癒せなかった心の傷のこと最後まで信じてたこと
消化も昇華もできていなかったことテルのこと。
ところが全部書き終えて下書き保存のボタンを押した瞬間に
PCが固まり画面が動かなくなり
1時間半かけて書いた渾身の下書きは キレイさっぱり、消えてしまった。


今思うと
それが良かったのかもしれない。


想いの丈を書き散らしてスッキリしたのかも。
しかも書いたものがキレイに消えちゃったことも。


うん。応援できる。
再びオレンジユニに袖を通すタクを観ても
心はきっと、ざわつかない。


そんな自分なりの段階を踏んで
夕方向かった、木曜日の練習試合だった。




タク、合流初日の三保。


トップチームの練習試合の後半アタマから
タクは出場した。
久しぶりのオレンジユニ姿。
胸の片隅が小さくチリリ、と 痛むのは
やっぱりまだ しかたない、か。
それでもプレーは相変わらずだった。
ボールがよく集まる。
強さと展開力。
違和感なく溶け込んでるタクに
懐かしさも込みあげてくる。



試合はタクが出場した後半に2得点をあげ
2−0で勝利した。


練習試合後の挨拶に
いつものように選手たちが観客席に向かってきたときのことだった。



一番うしろを歩いていたタクが
列に混ざり、深々と長々とお辞儀する。



そして



ひとり残って 大声で挨拶を始めた。



思いがけない行動に
びっくりして最初のほうは聞き逃してしまったが
あのときの移籍に少し触れ
「これからよろしくお願いします」と
また深いお辞儀。



タクにとっても この移籍は覚悟の移籍。
生半可な気持ちで できる移籍じゃない。


そんな決意が直で感じられたこの瞬間、
私のなかで ナニカが溶けた。


溶けて流れ出して 涙になって溢れた。


わだかまり、と言うものかもしれないし
心の傷に溜まってしまっていた膿、だったのかもしれない。


自分でも意図してなかった、涙が流れて
サポ仲間にみっともない泣き顔を笑われちゃって
「でも、分かるよ」と言ってもらって
本当にすっきり消化も昇華もできちゃった。
この日の三保に出掛けていなければ
小さな疼きを常にどこかで感じながらタクを応援してたかも。
平日の夜の三保へ 駆けつけて良かった。
観ていなかった2年半の間に 少しオトナになったタクと
また一緒に戦える。


お帰り、タク。
これから一所懸命応援させていただきます。


この日の三保は 私にとってトクベツな一夜になった。


私のように今回の移籍では
なかなかフクザツな想いを抱えてるヒトは多いと思う。
それはきっとしかたのないこと。
それだけツラいできごとの連続だった。
あの年のオフに受けた心の傷は
深さも痛みもそれぞれ違う。
早く克服できたから立派だというわけではなく
切り替えるのに時間が掛かるからと言って
それが弱さの象徴だとは思わない。
自分なりの速度で自分なりのキッカケを掴んで
自分なりに向き合えばイイ。
周りのスピードに合わせる必要は全くない。


今度はタクが皆さんのことを待つ番。


タクもちゃんと分かってる。