隣り合わせの危険

ミュージカルが苦手だ。
突然歌い始めたり初対面なハズのふたりがハモってたりすると
どういう心持ちで目の前の状況を受け入れたらいいのか、分からない。


でも『オペラ座の怪人』だけは大好き。


映画館で観ただけでなくDVDを購入して家でもたまに浸ってるほど。


だから、物凄く楽しみにしてた。
羽生クンの今季のフリーが『オペラ座の怪人』だと知って。


掌中の珠の如く見守り慈しみ寄り添ってきたクリスティーヌが
華やかな舞台の中央で一身に浴びるスポットライトと称賛の嵐。
それはふたりで成しえたことで喜びの出来事のハズなのに
まるで横から掠め取られたようにも思える、クリスティーヌの恋の予感。
何故だ!許さぬ!


そんな黒い感情渦巻くファントムの慟哭のシーンから始まったプログラム。


5回もの転倒があったにも関わらずに飛び出た高得点は
このプログラムがとっても難しい構成で組み立てられている、ということのアカシ。
完成したアカツキには きっと伝説に残るプログラムになることだろう。


だけど。


棄権してほしかった。


6分間練習でジャンプやスケーティングの確認を何度もする選手たちが映し出されるのを観て
その表情から「ああ、調子がイイんだな」とか「もしかしたら難しいジャンプは回避かな」とか
こちらもイロイロ感じ取ったりする。


そんななかで起きたアクシデント。


私も思わずTVの前で悲鳴を上げ ソファから立ち上がり
口元を抑えたまま、しばらく動けなかった。


サッカーだったら ピッチレベルに救急車を入れて
ふたりともそのまま担架で運び出されるようなシーン。
それほどの衝突だったのに。


本人はもちろん「やりたい!」と言うに決まってる。
五輪王者として初めて迎えるシーズン。
新しい自慢のプログラムを楽しみにしてるお客さまの前で披露もしたいだろう。
前日のショートが2位に甘んじたことも不本意だっただろう。


でも、コーチが止めなくちゃ。
強い気持ちで「やりたい!」と言い張る選手を
さらなる強い想いで「今回は止めよう」と諭すべきだった。


あんな状態でジャンプやスピンをこなすのを観ているのは恐ろしかった。


たぶん、羽生クンに記憶は無い。


当時連続無失点時間の記録を更新していたシジマールがゴール前で
アクシデントに襲われて脳震盪を起こしたときにも
本人の強い意志でプレーを続行したけれど
あとからインタビューであのときの記憶は無い、と答えてた。
羽田も脳震盪で搬送された先の病院で
眼が覚めるたびにそばにいた奥さんにチームの勝敗を聞いたらしい。


今日帰国して精密検査を受ける、とか。
どうか大事には至りませんように。
今はそれだけ。